“向きなおる”

ゲド戦記』ってご存知でしょうか?

 

確か一昨年くらいに、ジブリによって映画化もされた魔法使いの成長譚なんですけれど、私が以前から好きな物語の一つです。原作の一作目『影との戦い』は大賢人ゲドの駆け出しの頃の話で、様々な危機を乗り越えながら成長したゲドは、やがて大きな龍をも退治するほどになります。

 

そして最後、ラストの殺陣(たち)廻り。どんだけ手ごわい敵と戦うんやろうと思ったら、なんと相手は “自分の影” なんです。ゲドは一度その “自分の影” との戦いに敗れますが、師オジオンの元へと戻りその傷を癒し、師の励ましもあって再びこの宿敵を追い、闘うことを決意します。そして最後は…内緒にしときます(笑)。

 

(この “自分の影” は色んな受け取り方ができると思いますが、私自身は人間の顕在意識に対する“無意識”と受け止めて楽しんでいます)

 

で、先日いらした40歳代の男性。病院ではパニック障害自律神経失調症の診断を受けて投薬治療中ですが、最初の発症からは約20年が経っています。当院へは心療内科の先生のススメもあって、整体・鍼灸でそういった症状に対応しているところをネットで探して来ていただいたのが最初(先月)で、今回が4回目のセッションでした。

 

今回は“早期回想”という「あなたが思い出せる、幼い頃の最も古いエピソードはなんですか?」という質問への答えを投影法として用いるなど、少し掘り下げたカウンセリングを行ったのですが、最後に落ち着いてもらう意味もあって、頭蓋仙骨療法を行いました。
 
施術後、

○○さん「…ちょっと(右)腕をさすっていいですか?また痺れてきて…」

 これまで、諸々の症状の出方と心因的要素のつながりについては、カウンセリング中に大方納得していただいていたので(頭ではわかった状態)、いきなり実践することに…

「…あ、ちょっと待ってください。その痛みをもっと痛く感じてもらっていいですか?」

「…??」

「“もっと痛くな~れ!もっと痛くな~れ!”って」

「…はい。」

「(長い間)…どうなりました?」

「…(!!)、消えました…???」
私の手も借りず、薬も使わず、ご自身の意志の力だけで見事症状を鎮められました。やはり頭で理解するのと身をもって経験されるのとでは全然違うのでしょう、キョトンとされていました。
 
「さんざん(約20年)オレを苦しめたんは、お前か!」って尻尾を捕まえてみたら…懐かしい友人やった。…それも自分にそっくりな。そんな感じだと思います。

 

セッション中、クライアントの中でパズルのピースが“パチッ”とはまったかのような瞬間、仮面でないその方の本来の強さが表に出てくることがありますが、正直、いつも感動します。

 

この方の場合、今回の経験でコツをつかまれたことで、今後一つ一つご自身のペースで取り組まれることと思います(色々試してみたいとのことでした)。

 

努力の賜物、大きな一歩だと思います。まずは、おめでとうございます。(ちなみに身体症状が改善されることで不安感が増強される場合もあります。今回のケースはあくまで参考としていただけるとうれしいです。)
 
 
「~どうしたらいいかについては、わしにも考えがある。言うのはつらいがの。

 

~向きなおるのじゃ。

 

~今までは、むこう(自分の影)がそなたの行く道を決めてきた。だが、これからはそなたが決めなくてはならぬ。

 

~そなたを追ってきたものを、今度はそなたが追うのじゃ。そなたを追ってきた狩人はそなたが狩らねばならん。」
影との戦い―ゲド戦記 1 』 アーシュラ・K.ル=グウィン著 清水真砂子訳 岩波書店刊より~  ※( )内は田中。