息つぎ

健康管理のために水泳を楽しむ66歳の男性が、左肩の痛みを訴えて来院されました。
三ヶ月くらい前から、高いところのものを取ろうとしたり、泳いでいると痛くて動かしづらくなるというのです。


わたし「…泳ぎ方は大体クロールですか?」

男性 「はい、クロールばっかりです。こう(泳ぐ格好をする)水をかいてくる時はいいんですけれど、かき終わって腕を戻してくる時…ぁ痛たた!着水するころに痛むんです。
…もう年なんですかねぇ。
息つぎする時は肩が(水面から)上るから痛くないんですけれど。」


お話を聞いて、「息つぎはOK、息つぎなしはNG」というのがポイントで、年齢によるものはあまり関係ないように思えました。


首には首を固定したり、横に向けたり、横に傾けたり、呼吸を助けたりする斜角筋(しゃかくきん)という大事な筋肉があります。
首の骨から出て腕に向かう神経は、この斜角筋(前・中・後とに分けられている)と一番上の肋骨(第1肋骨)とで作られる三角形の狭いスペースを通過していきます。

その通過の際に、斜角筋の緊張などによってそのスペースがさらに狭くなり、神経が圧迫され、肩や腕に痛みや痺れが生じる場合があります(斜角筋症候群と呼ばれています)。

斜角筋の緊張が原因の場合、右か左の上方に顔を向けた時にはその緊張が解け、スペースが一時的に確保されることで症状が和らぐ場合があります。

このせいで、この方の「息つぎはOK、息つぎなしはNG」という現象が起きているのでは…、と推測したのでした。


施術は神経の通る三角形のスペースを確保する目的で、斜角筋の調整をメインに行いました。


わたし「~そしたら、肩の動きや痛みに変化があるか(もしくはないか)確認したいんで、ちょっと動かしてもらってよろしいですか?」

男性 「はい」


はじめは恐る恐る肩を回されていましたが、途中からはいよいよ“ノーブレス(息つぎなし)クロール”に突入です。

グングン泳ぎます。
グングン泳ぎます。
グングングングン…どんだけ泳ぐんですか!?という位泳ぎます。

男性 「(ニッコリ!)すごいスムーズですわ」


で、その時のわたしはというと、…実は大いにうろたえてました(汗)。

患者さんに悟られないようにしていましたが、実際の臨床でわたしの思路通りに施術が運び、あっさり結果が出ることなど…滅多にないからです(笑)。



参考:『カイロプラクティックマネジメントhttp://atq.ad.valuecommerce.com/servlet/atq/gifbanner?vs=2219441&vp=875953562&vcptn=geoc%2Fp%2FCHyuxfnFRacbN8U3rVwb.6ZTSbHL』 M.I.ガッターマン著 エンタプライズ社刊