失感情症(しつかんじょうしょう)

先日(1/12)は、心身症の病状を説明する概念の一つ「失体感症」についてでしたが、今回はその続きで失感情症(しつかんじょうしょう)についてです。

失感情/言語化症ともいわれていますが、空想力や想像力に乏しく、自分の感情や葛藤に対する言語化ができない、という特徴があります。

よく登校時刻が迫ってくると、お腹が痛くなってくるお子さんがいますね。そんな子にお腹イタ止めの薬を服ませても恐らく効かないでしょう。でもお母さんの「今日は休んでなさい!」のツルの一声でお腹イタが治まったりします。

この例では、この子の中の「学校に行きたくない!⇔でも行かなきゃ」という行き場のない感情・葛藤が口で「行きたくない」と言うかわりに、身体症状として発現されたもの、と説明されます。

ある患者さんから聞いた話ですが、その方は高校卒業後、不動産関係の会社に就職されました。毎日の仕事は大変厳しく、その上会社からは必ず宅建の資格を取れ、という至上命令が出されたそうです。

「そうはいっても昼間の仕事は絶対下手は打てへんので必死やったし、夜遅く帰ったらもうフラフラですわ。かといって宅建落ちたら会社に居づらくなるし、“勉強せな、でも出来ひん”で、若かったのもあったけどかなり追い込まれましたわ…」

失感情症は几帳面、頼まれると嫌といえない、とても人に気を遣う、いわゆる「まじめな人」がなりやすいといわれています。
この方も思いやりのある方で、関西でいう「気ぃ遣い」なのですが、とうとう宅建の試験の一週間前、腎臓結石を発症し、ご本人曰く「死ぬ程のた打ち回った」そうです。

失感情症などの対処法としては「開き直る」のが一番いいらしいんですが…、まじめな人が開き直るのは中々難しいんじゃないでしょうか。

ただそこまでいかなくても、例えば「学校に行きたくない」、「仕事が嫌いだ」という感情が自分の中にある、ということを認めてやる。
実際に学校を休む、仕事を辞めるのかは別にして、ただそういった感情の存在を肯定してやるだけでも、症状が軽減される場合はあるようです。


ちなみにこの方は、無事宅建に合格されました。

「それで入院させられて、ここまでかと思ったんですけど、入院て結構暇なんですよね。
で、仕事も出来ひんので、おとなしく勉強してたら(宅建に)通りましたわ。
あのまま仕事してたら絶対落ちてましたわ(笑)!」

…うまいこと出来てます。


参考:『有斐閣 心理学辞典